そもそも契約書って何?

法律って、日常生活でその内容を知る機会ってあまりありませんよね。

皆様の中には、個人間で物を売り買いしたいとか、簡単な事業を始めたいといった気持ちはあるのに、法律の仕組みを知らないことが足枷となって、最初の一歩を踏み出せない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、これから何回かに分けて、簡単な契約書についてのお話を一般の方に向けてさせいただこうと思います。売買や請負などの契約についてひな型とともに個別にまとめる予定ですが、第一回の今回はその前提としてのお話をしたいと思います。

※2020年4月1日に改正債権法が施工されることが決まっていますが、まずは現行法(2019年1月7日現在)についてのお話をして、時期が来たら改正法について触れる予定です。

 

・契約ってなに?

簡単に言うと、人と人とがする約束のことです。(会社などをよく「法人」と表現しますが、法人も人として約束をすることができます。)

物を売り買いする約束のことを「売買契約」、作ってもらう約束を「請負契約」、何かをしてもらう約束を「委任契約」などと表現し、原則が民法という法律に定められています。

ただ、これらは、ルールを定めるために、人と人との約束をあらかじめ想定して無理やりカテゴライズしているだけで、人と約束するからといって必ずこの内容に沿って行う必要はありません。「契約自由の原則」という言葉がある通り、基本的には、人と人とがどんな約束をしようとも自由です。(例外的に、公序良俗に反するような約束、例えば”誰々を殺してくれ”’’愛人になってくれ’’などのような約束は「民法90条」の規定により、無効となってしまいます。)

とはいえ、人と人とが普通に約束ごとをしたら、民法に定められているどれか(もしくは複数が合わさったもの)に該当する可能性が高いです。それくらい大まかに規定されています。(売買、贈与、賃貸借、使用貸借、請負、委任など)

 

さて、自分たちのする約束がどの類型に該当するかを意識することは、契約を行う上でとても重要なことです。例えば、物を作ってもらう約束と、何かをしてもらう約束は、表現上では非常に似通ったものですが、民法上では、前者は請負、後者は委任(準委任)と分けられ、異なるルールが定められています。当事者の一方が請負のつもりで約束をしたつもりが、もう一方は委任のつもりだった場合、物を最後まで完成させる義務があるのかどうかといった問題(ただ’’何かをする’’約束だったのなら、物を完成まではさせなくてよいはず)が生じます。こういった注意点をあらかじめ知っておけば、約束を具体的にする(物を’’完成’’させる約束をする)ことで、争いを未然に防ぐことができますね。

※ただ、法律の難しいところは、民法だけを知っていたら良いというわけではないということです。商法、消費者契約法、借地借家法といった特別法が想定するケースに該当する場合、これらの規定が基本法である民法に優先するためです。今後のコラムでは、こういったところまで踏み込んだお話をできたらと思います。



・契約書って必ず作らないといけないの?

契約書は、「なくても契約は成立するが、あったほうが良い」です。

基本的に契約の成立に書面は必要とされていません。口頭のやりとりのみでもきちんと契約は成立します。(保証契約など、必ず書面が必要となる一部の例外はあります。)

ただ、上で例に出した請負と委任の違いのように、わずかにでも当事者間の認識に齟齬があると、後々問題が起きる可能性があります。そこで、お互いの約束事の認識をきちんと合致させる目的のためにも、契約書は作成したほうが良いといえます。契約書は、万が一、争いごとになったときには証拠にもなります。

 

・契約書には何を書けば良いの?

基本的に契約書がなくても契約は成立するので、契約書に絶対に書かなければいけない文言などはありません。契約書と聞くと堅苦しい表現で書かれているものをイメージされると思いますが、表現も自由ですし、署名や記名押印がなくたって、契約書は契約書です。

ただ、契約書を作成する意義を考えた場合、どうせ契約書を作るのであれば書いたほうが良い文言はあります。例えば、約束の内容を具体的に定めなければ、請負なのか委任なのかの判断はできませんし、売り買いの対象を定めなければ、何を買主に渡すのかがはっきりしません。署名や記名押印がなければ、その契約が誰と誰の間のものなのかがわかりません。

なお、契約書に記載がない条件であっても、その契約が該当する類型が当てはまるルールがある場合、それが適用されます。例えば、売買契約において損害賠償条項が契約書にないからといって、相手型に損害賠償請求ができなくなるわけではありません。ですがこの場合、どちらかが損害賠償請求をできないようにする意図で損害賠償条項の無い契約書を作成していた場合、どちらが有利かはさておき、これまた争いごとに発展してしまうかもしれません。損害賠償請求ができないするのならば、「損害賠償請求はできない」旨を記載すべきです。

こういったことも踏まえて、「まずはお互いの約束事をきちんと固め(契約の場面)」、「それを書面に落とし込むこと(契約書の場面)」のように、契約と契約書を分けて考えることが大切といえます。

 

・印紙税って?

実は、契約書が印紙税の対象となる場合、契約書に収入印紙を貼らなければなりません。これがなくても契約が無効になることはありませんが、過怠税の対象となります。

印紙を貼らなければならない契約書か否かは、国税庁のHPで確認することができます。

(国税庁HP:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7140.htm)

一般の方々が行う契約において、印紙税が大きな金額になることは少ないとは思いますが、ここでは簡単な節約術をご紹介します。

1.消費税を分けて記載する

契約書に金額を記載する際、消費税込みの総額で記載した場合、その総額が印紙税の課税対象として計算する必要がありますが、分けて記載した場合、その消費税の部分には印紙税がかかりません。この場合、「消費税および地方消費税8%を含む」という記載ではなく、具体的な消費税額を分けて記載する必要があることに注意しましょう。

2.コピーを活用する

契約書は、同じものを当事者分作成してそれぞれが保管することも多いですが、この場合、それぞれの契約書に印紙税がかかってしまいます。一方、契約書のコピーには印紙税はかかりません。ケースにもよるとは思いますが、契約書は一通のみを作成し、各当事者の保管用はコピーで済ますというのも一つの手です。この際、コピーに対して署名や記名押印を行うと、コピーではなく契約書そのものだと判断されてしまうことに注意しましょう。



第一回は以上です。まずは、いろいろな契約に共通する事項をお話ししました。次回からは、各契約について踏み込み、簡単な契約書のひな型と一緒にお話しする予定です。よろしくお願いします。